【解説】
一口に、武士同士の争いで…と片付けるとあまりに不可解な事件。
「荘園」という、バックに莫大な権益を持つ存在があり、在地の管理を任されたエリート武士である明石定明(預所)と、地元の名士である父上・漆時国(押領使)とのプライドを懸けた軋轢があったと思われます。
されど父上は、幼い勢至丸に武士の常道である敵討ちを「してはならない」と言い遺され、「出家せよ」と仰った。
思えば、第1章で妻の懐妊を知った時に「僧侶となる子が生まれる」と喜ばれたことも、どこか武士の境遇をはかなんでおられる父上の心中を窺わせるのです。
この事件が、勢至丸の人生を大いに狂わせ、方向を転換させるのです。
ともに「西」に想いを寄せる父子。極楽浄土への憧憬と因縁を暗示しています。
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